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206

  • 2017-04-17 (月) 7:49
  • RO

oboroのSSSが書けたので置いておきます(エルディカスティスに桜は咲いていない)。

こんな土地にも桜は咲いているのかと、青年は夜桜を仰いだ。薄らと月光を透かすそれは薄紅というよりかは、薄青にすら見て取れた。ともすれば、その花は桜ですらなかったのかもしれない。
どこもかしこも凍てついているかのような街だった。
青年は夜気にひとつ身を震わせると、足早に街の中央を進む。大陸と異世界とが繋がって以来短くはない時が流れこそしたが、この世界に住まう亜人達にとって、大陸の人間は飽くまでも異端者だ。青年は、眠りを知らないかのように顔色ひとつ変えず、街の入口を守る番人に声をかける。青年の指に光る指輪、そしていで立ちを見つめた番人は、納得したように頷くと、街と外とを繋ぐ巨大な扉を厳かに開いた。
大きさに比例せず、溶けかけた氷が滑るように、大した音も立てずに扉は開かれる。青年を街の外へと吐き出したそれは、番人達により再び閉ざされた。
貧乏くじを引いたな、と青年は思考を巡らせる。属する教会の上層部から、異世界の魔物が落とすらしい鉱石を集めて来いと命じられ、断れるはずもなかった。努力を積み重ねて勝ち取ったアークビショップという肩書と、冒険者としてのそれなりの地位。己の生き方に誉れこそありはしない。それでも今更それを捨てられるはずもないのだからと、青年は幽かに苦笑した。
無論、教会とて彼ひとりにその任を負わせたつもりはなかったのだろう。信用に足る冒険者を数人集め向かえと、暗にそう言ったのだろうことは青年とて理解ができていた。それでもひとりこの土地を踏むことになったのは、青年が普段から教会の中でも孤立していたからにほかならない。
一匹狼を気取っていたわけではないが、人と関わることが得意ではなかった。理由という理由は、もっとも、それだけのことではあったのだが。
空間を歪める魔術は、大陸だけではなくこの異世界でも十二分に通用する。
幾度か地図を開きながらそれを繰り返し扱い、青年は進む。時折目のはしに巨大な虫型の魔物の姿を認めて、青年は顔を顰めた。虫は好きではない。
それでも目的の鉱石を落とす魔物もまた虫型だというのだから、ままならないものだ。
対峙すべき魔物はすぐに見つかった。
凍てつく大地に溶け込むためなのだろう雪のような体色。その背には、体の一部なのか否かは解らねども、時折つやりと輝く鉱石が生えていた。あれか、と青年は息を吐く。
捕食するためか、或いは外敵を排除するためか。八本の肢を動かしこちらへと向かってくる様は、巨大さと、その背に乗せる鉱石にさえ目を瞑れば、青年が得ていた事前の情報の通り、蜘蛛そのものだ。
容易く崩れる小さな青い宝石を、呼気ひとつ挟み足元に投げる。宝石が割れるや、瞬時に展開された障壁を維持し、青年は幾度も同じ祈りを口にする。
炎にも似た光が、障壁を越えて青年を害そうとする蜘蛛の肢を焼いた。
塵と化した死体の中から形の残る鉱石を拾い上げ、青年は汚れを拭う。何をどうしてこれを使うのかこそ知らなかったが、なるほど、美しい。あとはこれを目的数集めるだけだと、青年は障壁から一歩踏み出し、再び歩き出した。

宝石を砕き、障壁にその身を護らせ、裁きの祈りを口にする。
光が爆ぜ、蜘蛛の焼ける表現しがたい匂いを嗅いで、それを幾度も繰り返した。手元に集まったのは、それでもほんの僅かな欠片だけだった。
異世界の街を出発してから、とうに数刻が経っていた。
この季節だというのに冷えた夜気のせいで指先は凍え、昇りきった月のせいでどことなく瞼も重い。
だから障壁を形成する宝石を投げ損ねた、というのは、言い訳だったかもしれない。
障壁が的外れな場所に咲き、その瞬間に蜘蛛の放った糸に足を取られた。バランスを崩して倒れ込み、がら空きになった腹目掛けて肢が振り下ろされようとしたのを、青年は確かに見たのだ。
それでも青年は様々な攻撃に耐えうるような修業を重ねてきたつもりだったから、多少の痛みを覚悟した、その程度だった。
だが、蜘蛛の肢が青年の腹に届くことは終ぞなかった。
ざん、と。
音がした。
それと共に一瞬、舞うものがあった。
――桜。
薄い、紅色の。
その刹那の内に蜘蛛は八つ裂きの様相を呈する。青年がそれを理解するよりも先に、とん、と降るように青年の数歩前に影が落ちた。人影だろうそれを見上げ、蜘蛛の残骸を認め、青年は助力を得たらしいことを飲みこんだ。
「あ、」
「――おまえさまは、怪我をしてはいけない」
青年の謝辞を遮ったのは、酷く掠れた、小さな声だった。
闇夜の中に紛れるような、黒色の忍び装束。それとは裏腹に、闇夜の中に浮かび上がるような、柔らかな白髪に、狐の耳。
朧と呼ばれるのだろう少女が、そこには立っていた。
それが不意にしゃがみ込む。青年の足を絡めとっていた蜘蛛の糸が見慣れない得物でふつりと断たれれば、青年に自由が戻った。
「ありがとうございます、助かりました」
ようやっとその言葉を口にして、青年は少女を見遣る。少女はそれに応えずに視線をふいと青年の背後へと投げると立ち上がり、流れるような所作で、その背に携えていた巨大な風魔手裏剣を手に取った。
少女の手を滑るように離れた得物が、華を散らした。
乱れ飛ぶのは、桜の花弁か。
空を裂く音よりも早くに、数匹纏めて現れた新手の蜘蛛がその身を崩す。一瞬にして蜘蛛の群れを葬り去った少女を、青年は目を瞬かせて見つめるほかなかった。
倒した群れを一瞥した少女は、再び青年に視線を戻した。その顔の半分ほどは、包帯に覆われて見えはしない。それでもその視線が、桜の色をしていることは、どうしてかよく解った。その視線に促されるように立ち上がってみれば、少女は青年よりも幾分か背が低い。少女は青年から視線を外すと、腰元にぶら下げている袋から、そっと何かを取り出す。無言のまま差し出されたそれに、思わず青年が手を受け皿にすれば、その中に落とされたのは目的の数を上回る鉱石の欠片、そのものだった。
「これ……」
少女は何も応えないまま、周囲に視線を走らせる。
同じ場所に留まったままの人間ふたりなど、魔物にとっては良い餌にしか見えないのだろう。そのことに気付いた青年もまた、戸惑いは後回しに、少女に向けてありったけの援護魔法を重ねることとなる。
次の瞬間には、ふたりは動いていた。
少女が印を結んだのが解った。朧の戦闘を支援するのは初めてだ。だからこそ見たこともない印だったが、その術が発動したのだろう瞬間に少女の力が膨れ上がったのを青年は即座に感じ取る。
青年が少女に向け施すのは、神なる者の恩恵。
少女の頭上でぴんと立っていた狐の耳が、それにぴくりと揺れた。
ちりん、と。その耳を飾っていた鈴も揺れた。
先ほどよりもずっと素早く滑らかに、少女の手から得物が放たれる。不可視とも思えんばかりの舞い飛ぶ斬撃が、次々に湧いて出る蜘蛛の身を斬り伏せる。
その背を追う群れを、その眼前を塞がんとする群れを、少女の軽やかな、しかし重い一撃が散らしてゆく。
近距離まで飛び掛からんとした蜘蛛の懐にすら、少女はこちらから飛び込んだ。腰に携えていた短刀を一閃すれば、蜘蛛は両断されて地に落ちる。
その場を逃れ、街に辿り着くまで、だからさして時間はかからなかった。

街に続く門を潜ると共に、役目を終えたと言わんばかりに蝶の羽を取り出した少女を、青年は慌てて制止した。
これは、と荷物に押し込めていた鉱石を示せば、少女の反応はない。控えめに「頂けるのでしょうか」と問えば、少女は頷いた。
それならお礼を、と青年が口にすれば、少女は薄い表情のまま首を横に振る。
「……おまえさまが、怪我をしなければ、それでいい」
先ほどと変わらない、酷く掠れた声で、少女は言った。
「そういうわけにも……」
「……、」
眉尻を下げた青年を見て、少女は桜色の瞳をほんの僅かに曇らせた。それから少女は何かを考えるように視線を伏せ、再び青年を見、幽かに、それでも確かに微笑んだ。
「……夜烏」
青年が疑問を持ち問い返すよりも先に、少女は手の中の蝶の羽を千切った。瞬時に発動するのは、記憶に刻まれた土地への転移魔法。青年にそれを止める術などありはしなかった。
「……よがらす……?」
青年は少女が呟いた言葉をなぞる。
どういう意味だろうかと思考する。覚えておけということだろうか。
気まぐれな冒険者など掃いて捨てるほどいる。今回もその類だと思ってしまえばそれだけのことのはずだ。それでも青年の中の、気付かぬほどの小さな棘が、そうではない、それだけではないはずだと、そう語っていた。
桜色の、あの瞳を知っている。
そんな気がしてならなかった。

Comments:2

小源太 17-04-17 (月) 12:53

素敵なファンタジー小説読ませていただきました
ROという題材がファンタジーに結び付けやすいとはいえ羊さんの作文が流石です!
読み始めて3秒で感情移入出来ました^^
自分もお邪魔出来ればとか思ってしまいましたw

ばん 17-04-18 (火) 17:11

羊さんの世界だー。 
文章からどんどん入り込んでいくので、頭の中で景色が広がってました。  
うまく言えないですが、並べられる言葉の順番に引き付けられます。

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